私の入門している合氣道、中今塾より依頼を受けて、収納式の畳を制作してみました。
当初はクッションマットの類を検討していたのですが、値段も結構する割には、投げられた時の打感吸収力に欠け、思い切って合氣道ができないと悩まれていた塾長を見て、今までのノウハウを生かして、興味本位と、やってみなければ気が済まない困った性格も便乗して、材料代だけで制作を請け負いました。
これが後に、とんでもなく厄介な状態に追い込まれていきます。


どうすれば動かないか。
思考を繰り返す。
動かず、それでいて短時間で設置できる策は?
結論として、畳を組み合わせて100枚を1枚とすれば、畳は動かない。
さて、組手はどうする?
素人でも簡単に組み込める方法。
クッションマットの接合方法をヒントに、裏にベニヤ板をパズル状に成形してみた。
実際には組み合わされた部位は、接触接合することは無いように、隙間を設けたが、ただ、正確に畳を置くこと自体が素人さんには難解だったようだ。
組み込む必要が無いはずのベニヤの部分を組み込みながら敷いていく始末、
当然ベニヤ板には、それに耐えうる強度が無かったので、徐々に破損していく。
開設2カ月にして、動きまくる畳と変貌してしまった。


当初の稽古風景。
飛んでも跳ねてもビリッとも動かなかったのに・・・(涙)


とりあえず、この第一号試作品をトラちゃん1号と命名しておこう。


試行錯誤。
まずは図面にて思考に入る。
100枚を1枚に。
強度と耐久性。
まずはじめに浮かんだのが、2枚のパーツをずらせて組み上げる。
収納の際も省スペーステで済むものの、敷くときの手間がハンパない。
更に思考を繰り返す。


裏のベニヤ板の形状を考える。
衝撃を吸収する組み込み部が少々軟弱な気がするが、敷いてしまえば力は分散し、十分に耐えうると判断し、このアイデアで制作を開始。


全体の構図はこうなります。
前の写真は、この形状で仕上がってます。

しかしながら、若干心配だった部位が、いとも簡単に破損。
トラちゃん1号、敢え無くご臨終です(泣)


はてさてどうしたものか?
止まらなくなった畳では危険でしょうがない。
枠で固めてみるか。
と、言うことで考えてみる。
ダボとスレ桟で固定を試みて、三国ヶ丘道場にて、テストしてみる。
結果は惨敗(泣)

心配していたものの、ここまでジョイント部が脆いとは想定外だった。
それに、収納の場所が足りないことに気付く。


続いて試作したのは、ジョイント部のみの固定をあきらめ、枠同士を引っ張り合わせて動かない状況にしたのち、中に畳を敷くという方法だ。
10メートルの薄い布を6本用意した。
これは、畳になるレザーを貼ってくれた椅子屋さんから好意でいただいた。


枠のジョイントは、アングル金物を切断して加工を加えて制作、出来るだけ外側に広がらないように工夫した。
これで、かろうじて止まると思っていたが甘かった。


少しでも強度が増すと思い、残してあった裏のジョイント用の4ミリベニヤ板、形状が邪魔になって、隙間が空いたらその状態で動かなくなり非常に危険。
その日は、稽古にはならず、迷惑をおかけした。
次週に裏のベニヤ板を取り外す。
これは、元々耐久性に疑問があったため、取り外してメンテナンスができるように、ビスで固定してあったので、道友ニ手伝ってもらって、比較的楽に取り外せた。


枠材の強度には気を配ったが、やはり中央に引っ張る力が、布では弱すぎた。

後日、道友のアドバイスもあり、布の代わりに荷造り用のラチェットバンドで引っ張ってみると、何とか止まった。
とりあえず、トラちゃん2号かな。


しかしながら、どうもしっくりこない。
外側に掛る力を外側から内側に押込めている作用は、合氣道では避けるべき、力と力の激突であり、どこかに集中して力が掛る状況であることに懸念した。
裏に滑らないシートを貼るという提案もあったが、耐久性と、外側がやはり弱い。
思索は暗礁に乗り上げたまま、出口が見つからず、稽古に通っていても、何となく未完成品を提供していることの後ろめたさが拭えなかった。
取り外したベニヤの分の弾力性もマイナスとなり、投げ技を受けたときに痛いという声も上がってきた。
とりあえず、裏のベニヤをもう一度貼ることを考えている時に、名案が浮かび上がってきた。


接合部はとにかく強度と、若干の雑な扱いにも耐えられるように、金物が望ましい。
この金物は、アルミの柱巻という金物を流用したもので、既製品を80分割にカットした。
工場がアルミの切りくずだらけになった(涙)


一枚の畳に4か所の接合用金物をビスで固定する。
一枚の金物に穴が2か所。平らに収めるために、皿をつける。
一枚につき4回のドリル作業。
畳一枚に金物4枚×金物一枚に4回のドリル作業×100枚。
1600回の地道な作業となった。


金物の受け座部分。
アルミのフラットバーを細かく切断し、これまた穴あけ作業。
実に接合用のアルミ板の倍、ドリル作業が必要で、なんと、3200工程(汗)


床に当たると傷がつくので、金物の裏にゴムのシートを貼る。
受け座の切り込みが、やりやすいので持ち帰ったベニヤ板を4分割する。
畳の動きはピッタリと止まって、トラちゃん3号の出来上がりです。


収納用のコンテナに収めると、金物が飛び出しているので、箱をかぶす。
まぁ、なんとも手間が掛かりました。
しかし、なんとなく需要が見込めそうな気がするこの代物です。
市販の組み込み式マットは、厚みが薄いので、柔道の投げ技の際に痛い。
しかし、この簡易性の畳は衝撃の吸収性にも優れ、投げ技のある武道にはもってこいだろう。
収納も省スペースで済むし、あと、もう少し安全な接合部材と、軽量化を考えれば、商品として成立すると思う。
ノウハウは、ほぼ完全に出来上がったので、大手メーカーさんが制作してくれませんかね。
私が作るよりは、コストを十分に抑えられるだろうし。
技術協力は惜しみませんよ。